1997年にこの事業を始めて以来、多くの漕手やコーチと知り合う機会に恵まれました。しかし同時に出会うことができないでいた人もいるでしょうから自己紹介を含めて、私が日本で何をしようとしているのか、日本のボート競技について個人的にはどう考えているのかを話そうと思います。

自己紹介
名字はグルエンボーンです。みんなからはガルスと呼ばれています。日本には1992年に来ました。初めてボートを漕いだのは12歳のときですが、カッターだったのでおしりにまで豆ができました。

本格的にボートを始めたのは17歳のときです。大学ではほとんどの時間をボート部で過ごしました。規模の小さい部活だったので自分達学生がコーチングを含めて全てをこなしました。私は1年生のときこそセカンドクルーにいましたが、残り2年間は対校クルーにいました。もともとそんなに強い部ではありませんでしたが多くのレースで勝利を収めることができました。なぜかは後に説明します。私は乗艇練習のほかにコーチングや資金集めのイベントをしたりし、主将も務めました。卒業の際には、大学側から最も体育会系クラブに貢献したとして表彰されました。

戸田に来たのは大学卒業の2ヵ月後です。最初の5年間は高校生のコーチをし、その後大学生をコーチしました。私はボートがとても好きですし、もっとボートに関わりたいと思いました。そこで日本のボート部を対象にボート製品の輸入と販売を扱う有限会社ジェイツーを設立しました。ジェイツーでの活動を通じて、日本全国に出張し、たくさんのボート関係者に会う機会に恵まれました。今後もそのような人脈を大切にし、さらにたくさんの方とも知り合えたらと思います。私も、みなさんと意志疎通ができるように日本語を引き続き勉強します。

英語を話せる漕手もいることは承知していますが、私の英語が皆様の役に立てたらと思います。もし私に何かできることがありましたら教えてください。そこでこれから日本でのボート競技について私が考えていることをいくつか示したいと思います。以下の文章には支離滅裂なところもあるかもしれません。2005年現在で来日14年目ですが、もちろんまだ知らないことが多いのも確かです。しかし今回はあえて時間を頂いて以下のことを読んで頂ければと思います。

私の理想

私の理想は次の一言に集約できます。ポートをもっと楽しいものにしようということです。ただできるだけ最良のクルーを組まないといけない、と考えるより、ボートの競技人口を増やし漕歴を長くすることに重点を置きたいと思います。それによってより良いクルーが生まれ、日本の競技レベルの向上にもつながります。

日本のローイング界におけるマイナス点
現在多くの漕手は高校で2年半ないしは大学で 3年半だけ漕いでやめてしまいます。それで一部の選手はある意味、「悪夢が終わった」と喜びます。これはとても残念なことです。我々は「生涯スポーツとしてのボート」という標語を掲げるべきだと思います。ボートを嫌いになる人の数を減らし、皆にとってボートがより楽しいものとなるためにも、一部の人は別として多くの人が人生はボートだけじゃないのだと認識する必要があると思います。

もう一つ残念なことは週5日の練習を2、3年続けても、なかには1度もレースで勝ったことがない人がいることです。これではやる気を失う原因になるに違いありません。


イギリスと日本のローイングにおける決定的な違い
ということで、ここではイギリスのボート事情について説明します。全漕手は5段階に分けられます。(N)初心者、(S3)シニア3、(S2)シニア2、(S1)シニア1、(S0)シニアオープンの5つです。レースの大部分もまたたいてい5段階に分かれます。一方日本レースではせいぜい2段階に分かれているのがほとんどです。

誰でも最初は初心者ですし、初心者レベルでは到底レースに勝てません。そこで初心者のクルーはポイントゼロから始まり、レースも初心者同士で行います。そしてレースに勝てば1ポイント得ることができます。
次の表では、それぞれのクルーが持てるポイントの最大数が示されています。

 
ボートの種類
エイト
フォア
ダブル・ペア
シングルスカル
初心者(N
0
0
0
0
シニア3(S3)
8
4
2
1
シニア2(S2)
32
16
8
4
シニア1(S1)
64
32
16
8
シニアオープン(S0)
制限無し
制限無し
制限無し
制限無し

例:
1) 無しフォアのクルーが各自以下のようなポイントを持っていればシニア3になります。
0001 クルー合計ポイント数=1クルー平均ポイント数=0.25

2) 無しフォアのクルーが各自以下のようなポイントを持っていればシニア3になります。
1110クルー合計ポイント数=3クルー平均ポイント数=0.75

3) 無しフォアのクルーが各自以下のようなポイントを持っていればシニア2になります。
0295 クルー合計ポイント数=16 クルー平均ポイント数=4

このような数値は、レガッタやヘッドレースが数多くあるイギリスならではのものです。(ただヘッドレースでの勝利はポイントに加算されません。)全体での効果としては、1種目について勝者が一人以上出てくることです。それぞれの段階で一人いれば同じ種目で勝者は合計5人になるでしょう。しかしながら多くのレースでは、初心者の無しペアのようにエントリー数が多く予想されないものについて、レース運営者側の判断でその種目ないしは段階を省くことがあります。

イギリスの大規模なレースでは次のようなカテゴリーに分類されています。
 
男 子
女 子
8+
N, S3, S2, S1, S0
N, S3, S2, S0
4+
N, S3, S1, S0
N, S3, S1
4-
S2, S0
S3, S0
4x
N, S2, S0
N, S2, S0
2-
S3, S1, S0
S3, S0
2x
N, S3, S2, S1, S0
N, S3, S2, S0
1x
N, S3, S2, S1, S0
N, S3, S2, S0
同様にイギリスの小規模なレースでは次のようなカテゴリーに分類されています。
 
男 子
女 子
4+
N, S3, S2, S0
N, S3, S1
4-
S2, S0
S2, S0
4x
S3, S1
S3, S1
2-
S0
 
2x
N, S3, S2, S0
N, S3, S1
1x
N, S3, S2, S0
N, S3, S2, S0

各レース(英国での)カテゴリー分けにおける規定
ここには2例しか挙げませんでしたが、最終的なレースのスケジュールは特定の種目や各段階のエントリー数不足により変わることがあります。当然上記に関しては規則がたくさんあるのですが、ここでは4つだけ紹介しておきます。

1) あるレベルのクルーは、これより上のレベルのレースにもエントリーできます。
例えばS2のクルーはS2とS1とSOのレースにエントリーできます。このクルーが勝つとやはり各クルーメンバーにつき1ポイントが与えられます。

2) コックスも勝利毎にポイントが与えられますが、クルー合計ポイントには加算されません。

3) レースを行うのに必要なクルーの最低数はレース運営者が決めます。しかし勝者がポイントを得るには少なくとも4クルーのエントリーが必要です。

4) 一つのカテゴリーにおけるエントリー数は最大で16です。もし17以上あればAとBに分けられ、それぞれの勝者にはポイントが与えられ、表彰されます。

こうすることにより、全てのクルーに勝利を収めるための十分な機会が与えられます。そしてより多くのクルーがトロフィーや良い思い出を持って帰宅の途に着くことになります。

もちろんこのシステムがうまく機能するには、レースごとに刷新される全漕手のデータベースが必要になります。Eメールやインターネットを使えば、容易に情報を刷新して,各漕手のポイント数を確認できます。イギリスではARAがこの作業を担当しています。
この方法だと、勝ち抜き方式でレースを進めていけば、とてもうまくいくわけです。さらにメリットもたくさんあります。

 
そのメリット
イギリスでは毎週のように異なる地域でレースが3つか4つ行われています。3月から9月までがレガッタで、9月から3月までがヘッドレースです。ほとんどのレガッタは1日にわたって河で行われ、2杯レースです。レースは2,3分毎に行われます。これは観客にとってはとても良いことであり、また様々な理由から2杯しかいないとレースの質がとても高くなります。これはとくに2回戦以降についていえます。例えばシニア3の舵手付フォアで勝とうとするなら通常4回勝ち抜かないといけません。レガッタの距離は700mのものから2000mのものまであります。土曜日と日曜日で別々のレースが行われることもあります。ここで日曜日のレースが500mのスプリントだったりすると漕手にとっても観客にとっても非常に楽しめるものとなります。私自身も初心者とシニア3の700mレースやシニア2以上の1500mレースに出たことがあります。曲がりくねったコースでした。ここで言いたいのは、色々な形のレースがあってよいということです。

大会開催・運営における勧め
全国大会や大学選手権のようなレースはこのように運営することはできません。まあ少なくとも大学選手権については、対校クルー用の争奪杯とセカンドクルー用の盾レガッタに分けることはできるでしょうが。大学のレースについて言えば、五大学や東商戦のような対校戦の時期について提案したいと思います。現在のところ、とくに戸田について言えば対校戦などの非公式なレースは夏を通じて行われます。確かにこれらのレースには特有の伝統が多くあるのでしょうが、あえて私はそれら複数の対校戦を統合することを提案します。同じ日に3つか4つのレガッタが行われることになります。例えば4月か5月の日曜日にそのような日を設け、6月か7月の日曜日にも設けます。こうすると練習のためにコースが自由に使える状態が増え、観戦しに来るOBにとっても楽しめると思います。社内レガッタについても同じ様な対処ができるでしょう。

勝つ機会を増やすのと同時に、レースそのものの数を増やすべきではないでしょうか。

特に全ての漕手が参加できるような地元の大会を増やすべきです。まだ経験の浅い漕手が、自分より年上で熟練した漕手のレースを毎年見られるようになるのは非常に良いことです。同様に漕手の両親や友人もレース観戦に来てくれるよう働きかけるべきです。これについては隅田川ウォーターフェアレガッタが良い例です。

レースの運営はたくさんの人がたくさんの時間をかけないとうまくいきません。現在行わているレースの一部をどんな漕手でも出られるようにしてはどうでしょうか。個人的には,レースが過剰に運営されているように感じます。6レーンをめいいっぱい使ったり,カタマランの審判艇を何台も出動させることは必ずしも必要ではないはずです。最も大切なのは、漕手とそれを支える人々です。前述したようにイギリスのほとんどのレースでは2レーンしか使用しません。審判も200メートルごとに河岸に立ってクルーがルールを守っているか監視しているだけです。

もう一つ、やや知名度の低いレースにヘッドレースがあります。ヘッドレースは通常オフシーズンにやや長めの距離(2000−6000m)で行われ、通常のレガッタより運営しやすくなっています。15秒から20秒ごとに1艇ずつスタートし、ゴールまでの時間を競います。途中で速いクルーが遅いクルーを追い越すことになるので、通常男子エイトや男子クォドルプルのような速い艇は最初のほうにスタートさせ、男子・女子シングルスカルのような遅い艇は最後のほうにまわします。全200クルーが5000mを漕ぐヘッドレースでも,最初のクルーがスタートして,最後のクルーがゴールするまでの時間、クルーがスタート位置につける時間、結果発表までの時間を全て足しても2、3時間しかかかりません。クルーは練習のために土曜日に到着して、日曜日の午前にレースがあるとすると同日午後1時には帰途に着くことになります。ヘッドレースのおかげで漕手は冬の間もボートを楽しむことができますし、勝つ機会もさらに増えます。さらに、コーチにとってはクルーの調子を見るのにいい機会になります。

遠征の際、レース場までボートを運んで、人々を出向かせるのは常に大変なことですが無理ではありません。私の大学時代には,ボートをトレーラーで運んだり,現地で借りたり,他クルーと共用したりしていました。そして他校のクルーと一緒にコース近辺の艇庫にざこ寝し、次の朝にレースの主催者などが朝食を作るために到着しました。今となればとても楽しい思い出です。



終わりに

イギリスと日本のボート競技のシステムについては、まだまだ知らない部分もたくさんありますが、私がこれまで述べてきたことがもし他のボート愛好者と話す際の話題にでもなれば幸いですし,さらには、ボートがより楽しいものになり、すべてのボート愛好者にとって、よりよいものになるにはどうすべきか考える際の参考になれればと思います。

ガルス
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